「はは、申し訳ありませぬ。このところ、体が鈍っておりますゆえ
ここまで来るのが一苦労でござりましてな」

「たわけた事を…ならば丁度良い。お主、即刻、
江戸に向かえ。宗矩様がお目見えをご所望だ、良いな」

「父上がですか。弱ったな、あと一つなんだが…」

「何か言ったか」

「いえ。江戸屋敷で何かあったのですか」
十兵衛の問いに、勘右エ門は真っ赤になって口篭もった。

「と、とにかく行けば判る。そもそも、この里に帰ってきたのは
この時があるからであろうが」

(ははぁ、さては何も知らされてないな)
十兵衛は勘右エ門を哀れんだ。
所詮、百の理に優れていても、ただ一つ、誠が無い人間だ。
だから里の者がついてこない。
江戸屋敷詰めが出来ないのもそれが理由だ。

「それと又佐も共に連れていけ。お主一人だと、
道草ばかり食うであろう」

又佐が共の件は閉口するが、江戸行きは大歓迎だ。
飯も酒も美味い。四六時中、屋敷詰めにもなるまい。
大好きな芝居でも見れば、心の憂さも晴らせる。
実際、早く呼んでくれないかとさえ十兵衛は思っていた。
そうでなければ、もう少し、あの不思議な猫と愉快に過ごせたのだ。

十兵衛は急ぎ、旅支度を整えることに決めた。


四へ