無理もない。
時が経ち、佐枝子はあまりにも風貌が変わっている。
佐枝子も声をかけようとはしなかった。

声をかけてどうする

アル中で、薬中で、鬼婆のような自分を鏡に映しては、揺れる気持ちを
戒めた。
だが、日に日に想いは募り、苦しみは増した。

明日、この街を出よう

離れる前に、もう一度だけ顔が見たい。
それが今、彼女が歩いている理由であった。

家は判っている。
駅前にある8階建てのマンション、その最上階に朝美は暮らしている。
ベランダはクリスマスのイルミネーションで彩られている。
幸せに暮らしている様が見てとれる。
しばらく待っていれば、買い物か何かに出てくるかもしれない。
儚い希望だったが、佐枝子は賭けた。
幸い、雪は降り止んだ。

二十分も経たず、朝美は娘の手をひいて出てきた。
ケーキ屋に向かうようだ。
いつものように、ウサギのアップリケのカバンを提げている。

声をかけたい。
声をかけて、母と名乗りたい。
もしかしたら、朝美は許してくれるかもしれない。

後を追い、佐枝子はケーキ屋の前に立った。
朝美がいる。
優しげに娘に微笑みかけている。

ああ、大丈夫だ