「ただいま」
ドアを開け、陽一は肩に積もった雪を払い除けている。
今し方の涙が嘘のように、いつもの声、いつもの笑顔だ。
「おかえり」
負けじと美佐子も笑顔を返す。
それだけのことで、胸の奥がほっこりと温もった。
その温もりに力を借りて、美佐子は思い切って訊ねた。
「あのね、一つ訊いてもいい?」
「誕生日は来月だよ」
「違うの。どうして傘をささないの?」
思いもよらない言葉だったのだろう。
陽一は、持っていた傘に視線を据えた。
意外なほどの沈黙が美佐子に重くのし掛かる。
「違うの、ちょっと気になっちゃって。あの、あの、陽一さん泣いてたみたいだし」
言わでもがなの言葉に自ら驚き、美佐子は両手で口を被った。
陽一は顔を上げると口を開いた。
いつもと同じ優しい笑顔に見えたが、何かしらの決意に満ちている。
冷え切ったコートを脱ごうともせず、陽一は話し始めた。
僕は―
五歳の冬、母さんに捨てられた。
今日みたいな前も見えない雪の日で、クリスマスまで後三日だったって。
今でもね、微かに覚えてるんだ。
母さんが、あれ?もう、顔が思い出せないや。
僕にね、隠れん坊しようって言ったんだ。
ドアを開け、陽一は肩に積もった雪を払い除けている。
今し方の涙が嘘のように、いつもの声、いつもの笑顔だ。
「おかえり」
負けじと美佐子も笑顔を返す。
それだけのことで、胸の奥がほっこりと温もった。
その温もりに力を借りて、美佐子は思い切って訊ねた。
「あのね、一つ訊いてもいい?」
「誕生日は来月だよ」
「違うの。どうして傘をささないの?」
思いもよらない言葉だったのだろう。
陽一は、持っていた傘に視線を据えた。
意外なほどの沈黙が美佐子に重くのし掛かる。
「違うの、ちょっと気になっちゃって。あの、あの、陽一さん泣いてたみたいだし」
言わでもがなの言葉に自ら驚き、美佐子は両手で口を被った。
陽一は顔を上げると口を開いた。
いつもと同じ優しい笑顔に見えたが、何かしらの決意に満ちている。
冷え切ったコートを脱ごうともせず、陽一は話し始めた。
僕は―
五歳の冬、母さんに捨てられた。
今日みたいな前も見えない雪の日で、クリスマスまで後三日だったって。
今でもね、微かに覚えてるんだ。
母さんが、あれ?もう、顔が思い出せないや。
僕にね、隠れん坊しようって言ったんだ。