政伸の右手には何かに咬みつかれたような傷があった。

「あなた、その傷…」

「ん?犬に咬まれたって言ったろ」

それ以上突っ込んで訊く間も与えず、政伸は出勤した。
美智恵は、ふと思い立ち、以前の新聞を取り出した。

連続殺人事件は2週間前に発生している。
最初に発生したのは3月20日。はっきりと覚えている。政伸は帰りが遅かった。せっかく作った料理に箸も付けなかったのだ。

次が残業と偽った日。

そして昨日。

いずれの犠牲者も、黒く長い髪の若い女性だった。
美智恵は更に遡ってみた。ネットで未解決の連続殺人を検索してみた。

何件目かに、ヒット。
黒く長い髪の娘ばかりを狙った殺人。
まだ見つかっていない犯人は、被害者の髪を持ち帰っていた。
その全ての犯行現場に、共通点が有る。
政伸の出身地、出身大学の所在地、単身赴任先。
言い知れぬ不安に襲われた美智恵は、とうとう覚悟を決めた。

美智恵は政伸の部屋に入った。大切な仕事の書類が有るからと、近づくのを禁じられている。

鍵の掛かった机の引き出しをドライバーでこじ開けた。

一瞬、美智恵は自分の見た物が何か判らなかった。腐臭を漂わせる黒い物。