花見小路に差し掛かった丁度その時。
新撰組がやって来るのが見えた。

(おやおや。厄介な奴等がやって来たな…)
その思いが足を止めさせた。
黒板塀に身を寄せて、やり過ごそうとする。
その時、思いもかけぬ事が起きた。

気付かぬ間に背後に人が立っていたのだ。
気配を殺しているわけではないようだが、
その男は余りにも自然であった。

「ちゃちゃちゃ。こりゃ困ったぜよ。
壬生の狼達が、こじゃんと来る」
土佐訛りのその男は、ちらと先生を見やった。

「ほい、こがぁな所に猫がおる。すまんが、ちくとばぁ
手伝うてくれ」
そう言うなり、ひょいと先生を抱き上げた。

その男の不思議な気配に、先生も抗うことを忘れて
身を任せた。
ち、ち、とネズ鳴きをして先生の喉をくすぐりながら、
男は真っ直ぐに新撰組に向かった。
たちまち、新撰組から声があがる。
「おぬし、坂本ではないか」
「そうだ、土州の坂本竜馬だぞ、こいつ」

一瞬にして緊張が走る。
が、竜馬は相変わらず先生をくすぐりながら
歩みを止めようとしない。
その様子に思わず、隊士が道を譲った。
竜馬は堂々と真中を通り、三条大橋に向かって
遠ざかっていく。

追う事も忘れ、見送る隊士の顔つきから、いつの間にか
険悪な気配が消えている。
まるで春の風が拭きぬけたように、竜馬は男達の殺伐な
気持ちを溶かしていったのだ。

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