『密教入門。一日で学べる秘儀・修法』

「これだわ。」
早速、陽子は入会届けを出した。
ご近所の顔見知りの奥様連中も来ている。
意外と、盛況であった。

講師はいざなぎ流を極めた陰陽師太夫。
講義は基本概念から呪殺までに至った。

そこで陽子は、基本的な九字印、
内縛印、外縛印、転法輪印などの霊縛の印までも習得した。
さらには、不動行者加護真言
「ナウマクサマンダ バサラダンセン ダマカロシャソワダヤ ウンタラタカンマン」
などの真言すら習得する。

「完璧よ。これで相手がどんな霊でも退散できるはず」

今夜もまた、金縛りが陽子を襲った。
「ふふ。今夜の私を侮ってはならぬわ。いざ、霊縛の印を!
 ……あれ?あれれ?」

無理であった。印を結ぼうとはしたのだが、
指一本動かせないから金縛りなのである。

「やーん。印が結べない~、ではせめて真言だけでも。
頭の中で唱えるだけでも効果があるはずよ」

『ナウマクサマンサ 違う、サマンダ サバラダンカン 違うわ!ああっ思いだせんっ!』

とにかく少しずつでも体を動かさねば、と陽子は悪戦苦闘した。
唇を動かし、鼻をヒクヒクし、瞬きする。
ひょっとこのような顔、転じておかめのような顔。

色々と試すうちに、あの声がまた耳元で聞こえた。
「あぁ面白かった。君な、めっちゃおもろいわ。充分楽しんだから帰るわ」
陽子の金縛りは、こうして終わりを告げた。

翌週から、カルチャーセンターに新しい講座が開設された。

「長谷川陽子講師・金縛りはボケで解ける」

大盛況であった。