季節はまだ初夏である。
うなされるほど暑くは無い。
芳雄は、虚ろな目を開け、ボソボソと何事か呟いて失神した。
それは

「おかぁちゃんたすけて」
と聴こえた。

奇妙な事だが、熱いと言いながら、まるで寒さから逃れるように体を丸め、震えている。

まんじりともせず、朝日を迎えた一向は、とりあえず次の目的地に向かった。
芳雄はまだ眠っている。その体を丸めたままだ。
母親の体内にいる胎児のようであった。

残りのメンバーは、狐に摘まれたような顔で彼を見ている。

「…なんやったんかな」

「判らん。只事やなかったよな」

「どうしようか」

彼らが助かったのは、この時、ママさんに連絡をとったおかげだ。

連絡を受けたママさんは、わざわざ彼らを訪ねて行った。
もしかしたら、彼らから何か言ってくるかもしれないと、事前に俺が伝えておいたのが役に立ったわけだ。

挨拶もそこそこに、ママさんは彼らの車に向かった。

一言だけ言った。

「哀れな…」

包みから何かの粉を取り出すと、車の中に振りまきだした。

小さく低く、詠唱しながら満遍なく振り撒く。

不思議な香りが漂った。