この時間、この電車なら後ろから二両目の真ん中の扉だ。

そこが最も改札に近い。
いつもなら構わないが、今夜は1分1秒でも早く帰りたい。
明日の日曜日、彼女が来るのだ。
手作りの料理をご馳走するって約束したのだ。

タンシチューを作るつもりで用意はしてある。
早く帰って仕込みたかったのに。

あの課長の野郎め、クレーム押し付けやがって。

よし。あと2つだ。この時間帯、競争率高いからな…

む。むむ。むむむ。
俺の前に居るサラリーマン、密かにアキレス腱を伸ばし始めたぞ。
さりげないふうを装ってはいるが、俺には判る。
ほら、また爪先をあげた。

げ。

靴の紐をきつく結わえ直している。

定期券も右手に持った。

こいつ…プロだ。
俺みたいな素人ではたち打ちできないかもしれん…

だが負けるわけにはいかん。

駅前のタクシーはおそらく、五台前後。
それに乗れなければ、次来るのは早くておよそ40分後。

歩けば一時間で帰れるが、出来れば体力は残しておきたい。
むふ。むふふ。

いかん。にやけてる場合か!
こうしてる間にも、アキレス腱伸ばし野郎は着々と集中しているんだ。


二へ