明日はいよいよ、という晩。
いつものように皆と一緒に夕餉をいただいているうち、
源兵衛がふと、昔の話を語りだしたのでございます。

「わたしもねぇ、昔はおまえたちと同じ、丁稚奉公をしていたんだよ。
初めての薮入りは待ち遠しくてねぇ…何しろ、わたしゃ三つの時に
親父を亡くしてたからね、お袋様に会いたくてねぇ…
お駄賃を少しづつ貯めたへそくりで、
下駄とか帯締めとか買ってあげたりしてねぇ。」

皆、何事かと聞いております。
昔のことなど、ついぞ話したことの無い主でありました。

「ところがね、子供ってのは薄情なもんだ。忘れもしない、四年目の
正月の薮入りだ。わたしはいつものように店を出た。
ところが、真っ直ぐには帰らなかったんだよ。
芝居を見て、落語を聞いて、買い食いをして…
とうとう貯めていたへそくりが五銭しきゃ残らなかった」

皆は箸を止めてしまいました。
自分たちにも覚えがあるのでしょうな。