母は、思ったよりは元気そうだった。
どうやら、下ごしらえの最中に気分が悪くなって倒れたらしい。
用事があって来た姉が見つけて大騒ぎになった。

「なんだよ、姉さんたら。びっくりさせて」

「熊。ちょっと話があるの」

「なに。小遣いでもくれるのか?」
いつもなら頭の二、三発でも叩かれる筈だが、姉は
真面目な顔を変えない。

「な…んだよ」

「いいから来なさい」

病院のラウンジで姉は真っ直ぐに熊を見つめた。
熊は嫌な予感がした。
昔から姉は、どんなに辛いことでも真っ直ぐに向かい合って来た人だ。
辛い言葉でも、いやそれが辛い言葉であればあるほど、
真っ直ぐに人を見て話をする。

「お母さんね、肺癌よ」

理解できなかった。肺癌、という言葉は知っている。
お母さん、という言葉も判る。
だがその二つが結びつかない。

「はぁ。」と間の抜けた返事しかできない。

「もってあと三ヶ月よ」
ようやく結びついた。途端にうろたえる。
倒れることすら無いと思っていた母との別れが
急速に近づいている。

五へ