事ここに至り、ようやく芳一は思い当たった。
「これって耳無し芳一じゃんっ!和尚さん、耳。耳もちゃんと書いてくださいっ!」

和尚もニンマリと微笑む。
「そこんとこに抜かりは無い。耳どころかあんな所もこんな所も、えぇっ、そんな所?も書いて進ぜよう」

「お、お手柔らかに…」

芳一の全身に有り難いお経を書き綴り、芳一に今夜は武士が迎えに来ても返事をするな、と堅く言い含める。

「よいか、出来るだけ鼻で呼吸をし、気配を消せ。
目も開けてはならぬ、蚊に刺されても動くな。よいな。」

芳一は頷くばかりである。
そして夜が来た。

「芳一殿。今宵はいかがなされた。あまりに遅い故、迎えに参った。
芳一殿。ほーいちどのー」

返事してなるものか。落ち着け。
鼻呼吸。目も開けない。
蚊も我慢。

「むぅ…見当たらぬな。さては気付かれたか…口惜しや。
諦めきれぬ、今しばし探してみるか…」

しつこいな。
早く帰れよ鼻呼吸。

「うぬ?ここに琵琶はある。してみると、やはりまだこの寺に…」

しまった…
ケース隠しておくべきだった鼻呼吸。

完へ