志乃は、年季が明けたら故郷へ帰るつもりであった。
今ではもう見知った顔など居る筈も無い。
家を借りて、小さな飲み屋でもやろうかと思っている。
そのために、借金を返しながら少しずつ細々と小金を貯めてきた。
徹は父を亡くし、働きながら大学で学んでいる。
親戚から僅かばかりの援助もあるが、とてもそれだけでは足りない。
助けてあげたい。
少し節約すれば、仕送りできるかもしれない。
ささやかではあるが、志乃に夢ができたのだ。
今朝も、作りたての弁当を持ち、志乃は徹の部屋を訪ねた。
いつもなら窓を開けて掃除している筈だが、今朝は違った。
「徹さん、まだ寝てるの」
小首を傾げて、志乃は部屋を覗き込んだ。
「え?」
徹が倒れていた。
口から溢れた血で畳が汚れている。
誰かの叫び声が聞こえた。
それが自分の声だと気づくのに数分かかった。
己が汚れるのも構わず、抱き起こす。
「徹さん、しっかり!今、お医者さん呼んでくるから」
引き摺るように布団に連れていき、優しく寝かせ、
志乃は玄関を飛び出した。
今ではもう見知った顔など居る筈も無い。
家を借りて、小さな飲み屋でもやろうかと思っている。
そのために、借金を返しながら少しずつ細々と小金を貯めてきた。
徹は父を亡くし、働きながら大学で学んでいる。
親戚から僅かばかりの援助もあるが、とてもそれだけでは足りない。
助けてあげたい。
少し節約すれば、仕送りできるかもしれない。
ささやかではあるが、志乃に夢ができたのだ。
今朝も、作りたての弁当を持ち、志乃は徹の部屋を訪ねた。
いつもなら窓を開けて掃除している筈だが、今朝は違った。
「徹さん、まだ寝てるの」
小首を傾げて、志乃は部屋を覗き込んだ。
「え?」
徹が倒れていた。
口から溢れた血で畳が汚れている。
誰かの叫び声が聞こえた。
それが自分の声だと気づくのに数分かかった。
己が汚れるのも構わず、抱き起こす。
「徹さん、しっかり!今、お医者さん呼んでくるから」
引き摺るように布団に連れていき、優しく寝かせ、
志乃は玄関を飛び出した。