「韋駄天、飯にするぞ」
犬は答えない。よく見ると、その口に雉を一羽咥えている。
少年と犬は里に向かった。

「おとう、腹へった」

「太郎丸。また山へ行ってたのか」

おとうと呼ばれた男は、この里を率いる者である。。
名は竜之介、四十は越えているが、頑強な体つきは
岩のようであった。顔もまた、岩のようであるが、
どことなく愛嬌がある。
切れ長の二重が、糸になるぐらい微笑んでいる。

太郎丸も似たような顔つきで父親に微笑みかけた。
「あぁ、雉が獲れた。韋駄天がしとめたんだぞ」

「そうか、韋駄天、よくやった」
韋駄天は二人から頭を撫でられ、嬉しそうに見上げる。
黒い毛並みに、眉毛のところだけが白く抜かれている。

竜之介は編みあがった草鞋を太郎丸に渡した。
「これをおばばさまの所に持っていってやれ」

「うん。わかった」

走り出す太郎丸を愛しそうに見送り、
竜之介は雉鍋の支度を始めた。
母は、すでに戦乱に命を落としていた。
母替わりになり、太郎丸を育てて早五年の月日が
流れていた。