「あかん。何かあったに違いないで。豆腐送りや」

「豆腐送りとは」

簡単に説明し、走り出そうとするひょうすべを十郎太が止めた。
「何しまんねん、急がなあかん言うてますやろ」

「だからこそだ。俺に負ぶされ」
いや、それは、と躊躇するひょうすべを無理矢理背負い、
十郎太は恐るべき速さで走り出した。
たちまちのうちに琵琶湖が見えてくる。

「あ、あんさんホンマに人間か、そこら辺の馬では
勝てへんのちゃうか」

息一つ弾ませず、十郎太は高らかに笑い出した。

「あ、また流れて来た。あっちや、あっち」

ひょうすべの指し示す方向に向け、十郎太は速度を増す。
行く手に廃寺が見えてきた。

「あそこや、あそこに違いあらへん」

「ああ。どうやらそのようだ。悲鳴が聞こえた。
ひょうすべ、お前はここに残れ。俺一人で充分だ」

「そうはいかへん。大事な仲間をやられて
黙ってられまっかいな」
勢い立つひょうすべに、判ったと短く一言答え、
十郎太は門の前で止まった。