「確か…ジゼルだっけか」

月明かりに照らされた公園で、一人の娘が
小さなラジカセから流れるジゼルに合わせて踊っていた。
色あせたスウェットスーツ姿を着ていたが、その姿は、
はかなく消えていく妖精そのものに見えた。
思わず、熊は拍手をしてしまった。

その音に驚いた娘が振り向く。
「あ、あぁごめんなさい。驚かすつもりは無かった」

熊のような大男のあまりのうろたえように、娘はクス、っと微笑んだ。
見かけは怖い熊のような男だが、害は無いことが直ぐに判ったのだろう。
やはり、その姿は月灯りの公園に舞い降りてきた
妖精のようである。

「バレエの練習?」
おずおずと声をかける熊。

「はい。ごめんなさい、うるさかったですか?
他に練習できるところが無くて…」

「いや、この辺りなら大丈夫ですよ。それに、そんな
綺麗な音楽ですからね、構うこと無いです」
よかった、と呟き、娘はラジカセを止めた。

「あの…このあたりに、コンビニ無いですか?」

「少し歩かないとねぇ…どうしたの?」

「バイト帰りに練習してたら、ご飯食べ損なっちゃって…」

「だったら、俺の店にどうぞ。簡単なものしか出来ないけど」

その日、評判だった〆め鯖の焼き物に、野菜たっぷりの味噌汁を
付ける。ひじきの煮物に、切干大根。少量の玄米ご飯。
「これなら、全部食べてもそれほどカロリーは高くないですよ。
食物繊維もバッチリ」

「なにこれ。すごく美味しい…」
夢中で食べ始めた。

三へ