「いや、違うんです。実はお約束してたのは、30分後なんです。
意外に道が空いてたんで早く着いちゃって…」
業者は頭を掻いた。

「あの…依頼者は何と言う方」

「ええと…あれ?」
葬祭業者は何度も書類を捲り確認している。

「どうしたんですか」

「いやあの…依頼者も吉田しずさんなんです」

確かに書類には、依頼者吉田しずと明記されている。
既に共済からの引き落としも決定済みであった。
「どういう事?」

美佳も頭を捻ったが、支払いが終わっている以上、いつまでも病院に引き留めておくわけにはいかない。
エンゼルケアーを始める。

点滴などのチューブ類を外し、体を拭く。
死に化粧を施そうとして、美佳は気づいた。

死に化粧をする必要が無いのだ。
しずは、既に自ら化粧をしている。

「しずさん、もしかしたら、この為に?だったら、業者を呼んだのもやっぱりしずさんなの?」

しずは答えるわけも無く、ただ微笑んでいる。

『なるべく他人様に迷惑をかけたくないからねぇ』
美佳は、しずの口癖を思い出した。

整理の為に病室に戻ると、テーブルの上に美佳宛ての手紙が置いてあった。

『ありがとう、本当にありがとう、お達者で。片桐さんが、家族のようで嬉しかったですよ。
こんな婆様に優しくしてくれてありがとう、ありがとう』

終へ