「ひやぁ」
間抜けな声しか出ない。
慌てて交番のドアを閉めた。
追いついた女が窓を叩き始めた。
割れたガラスで傷つくのが怖くも何とも無いのだろう。
このままでは袋のネズミだ。

俺は女を見つめたまま、後退った。
窓から出るんだ。
出て、タクシー乗り場へ走る。
上手くすれば、女に気づかれないはずだ。

焦るな、焦るな。
ゆっくりとゆっくりと。
よし、奥の部屋に入れた。
予想通りだ、窓がある。
そっと開け、俺は外に忍び出た。

女はまだ、窓を叩き続けている。
助かった。
このままそっとタクシー乗り場へ走るんだ。
ほんの目と鼻の先だ。
幸い、タクシーが一台だけ残っている。
俺は転げるように走り出した。
走りながら、タクシーに合図を送る。
運転手が気づいてくれた。
一瞬だけパッシングを送ってくる。

「こんばんは。どちらまで」

「いいから走って。とにかく走ってくれ」
俺の勢いに押されたのか、運転手は急発進した。
バックミラーに女が映っている。
カッターナイフを振りかざして、何か叫びながら
走ってくる。