だが、天狗の刀は空を切った。
「なにっ!」

十兵衛の体はまだ、落ちてこない。
十兵衛は、左手で傘化けを掴んでいた。
傘化けは破れた体を精一杯、開き、
落下速度を鈍らせたのだった。

十兵衛は傘化けから手を離し、天狗を目掛け、落ちた。
そのままの勢いで刀を振り下ろす。
刀は、避けようとした天狗の腕ごと、
長い鼻を根元から断ち切っていた。

「貴様の言う、弱い者でも力を合わせれば
こういう芸当が出来る。」

鼻から血を噴出し、立ちすくむ天狗の腹を金色の光が
通り抜けた。
妖力が無くなった体には、最早、先生の攻撃を跳ね返す術は無かった。

天狗は己の腹に空いた穴を見つめたまま息絶えた。
長く厳しい闘いに、ようやく決着が付いた。

だが、先生にも十兵衛にも笑顔は無い。
キジムナー、すねこすりがそこに居ない。
傘化けもまた、逝こうとしていた。

「先生、おれ、やったぜ…」

「傘化け…強いですね、あなたは。私より何倍も…」

「へ、へへ。あいつらに自慢しなきゃな。十兵衛様、ありがと…」

箱根の山中に、先生の悲しげな鳴き声が一度だけ響いた。