「うわ。ううわ。海坊主だ。俺、初めて見た。」
傘化けが騒ぐ。

「猫殿、これはまた怪なる者じゃな。」
さしもの十兵衛も驚いている。

「これは海坊主と申す妖しの者。私の古い友達です。
この国に渡ってくる時、世話になった者です。」

その声に応じ、海坊主が近寄ってきた。
「先生。久しぶりじゃな。」
意外と甲高い声である。

「海坊主、悪いけど送ってくれないか?」

「行くのか。天狗の野郎んとこへ。」

「あぁ、奴等、私達が東海道を上がってくるものと思っているだろう。
小田原側から奴等の背後を攻めたい。」

「うん。解った。舟ん乗れ。」

一行が舟に乗る。海坊主は一旦、海中に沈み、舟を曳き出した。
舳が波を切って進む。恐ろしい速さだ。
十兵衛と先生以外は必死で舟にしがみついている。

「これは…猫殿、何やら愉快だな。」

「えぇ。割合と、楽しゅうございますね。」

この時代には有り得ない速度で舟は進む。
先生のヒゲが風になびく。
十兵衛も心地良さ気に水平線を見つめた。