「違うな。この寺、いずれも鬼門ではない」

「…どういうことなのでしょうか」
又佐が不安を隠せぬまま聞いた。
仁衛門も黙ったまま十兵衛の言葉を待っている。

「寛永寺であるとか、浅草寺であると当時から言われている。
裏鬼門を守るのは増上寺だともな。
この三寺とも目くらましなのだと言う者も居る。
俺もそうなのだろうと思っていた。なにしろ、風水の達人である
天海僧正が練りに練り込んだのだからな」

十兵衛は延命丸の袋を手に取った。
「だが、今、判った。ことはもっと単純だ。
おそらく、江戸城の鬼門はがら空きのままだ。
天海僧正は、この江戸を守る気が無い。
妖しの件もそうだし、この薬もそうだ。ただの阿片とも思えぬ。
何かからくりがあるに違いない。
決めた。一度、天海に会いに行く。」

静まり返っていた一同が一斉に声をあげた。
一際大きな声をあげたのが又佐だ。
膝でにじり寄りながら、必死で十兵衛を止めた。

「案ずるな、又佐。いきなり妖しのものが大軍で襲ってくるわけでもなかろう」

十兵衛は早くも立ち上がっている。俺も行くとばかりに太郎丸も立ち上がった。

「どうやったかは判らんが…あの妖しのもの達は人が変化したのだ。
それも調べたい。さ、行くぞ又佐。敵は寛永寺に有りだ」

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