「お身体は大丈夫?」

案ずる妻に笑顔で応え、斎藤重雄は工場に向かった。

納豆製造工場長、斎藤重雄はこの道三十年のベテランである。
彼の納豆に対する情熱と努力は、並大抵ではない。
真面目にコツコツと歩んで来た彼が、工場長に抜擢されたのも当然である。

このところ、激務が続いている。

つい最近巻き起こった納豆ダイエットブームの為だ。

重雄はそのブームを半ば喜び、半ば呆れて見ていた。

わざわざテレビ局が言わなくても、古くから日本人は納豆の良さを知っているのだ。

(ダイエットに効くとは思えんが…)

今週頭、会社は増産を決めた。
重雄は増産には反対であったが、会社の決定には逆らえない。

娘が嫁いで早二年。
孫にオモチャも買ってやりたいし、何よりも頑張ってくれた妻と旅がしたい。

正直、金は稼ぎたい。
信条を曲げて、重雄は量産体制を整えた。

通常の五倍の量が今朝の出荷を待っている。
出勤途中、駅のテレビから流れてくるニュースを見て、重雄は思わずその場に座り込んでしまった。


「データ捏造?何を言ってるんだ、こいつらは」
二へ