ジャックが立ち上がったその時、
玄関のチャイムが鳴った。

「なんだ今頃」
ち、っと舌打ちし、ビクターが振り返る。

「すいませーん、ちょっといいですかぁ」
その声を聞いた麻理が複雑な表情を見せる。
のんびりと草を食む山羊のようなその声は、
間違うことなく、蛮店長であった。

「旅の者ですがぁ。道に迷いましてな、難儀しております」

「申し訳ありませんが、他を探してもらえませんか。
今、取り込み中でして」
ビクターが事務的に答える。

「うーん。そうはいきません。うちの大事なカリスマ店員を
助けなきゃ」

「何!?」

ビクターの驚きは、次の瞬間、さらに膨れ上がった。
分厚い樫の木のドアを拳が貫いたのだ。
拳はゆっくりとドアのロックを外した。
扉が開く。

「麻理ちゃん、お待たせ。ごめんねー」
黒い革の上下、長い髪を後ろで束ね、大きな鞄を背負った男が現れた。
蛮店長である。

「き、貴様、蛮か」

「おや。久しぶり、ビクターちゃん。まさか、日本に居るとはねぇ。
随分探したんだよ。あ、そっちに居るのはジャックくん。
相変わらず、荒れた毛並みだなぁ。たまにはブラッシングしなさいよ」

飄々と軽口を叩いているだけなのだが、
何が怖ろしいのか、ビクターとジャックは蛮から飛びのいて離れた。