当たり前だ。
そんな事ぐらいで外れたら、シートベルトの意味が無い。
やはり、切るべきだ。

何か無いか…

俺は辺りを見回した。

有った!

衝突した時に割れたガラス。

これで擦れば、何とかなるかもしれない。

まるで脱獄を企てる囚人のように、俺は慎重にベルトを擦り続けた。

努力の甲斐有って、端がほつれてきた。

いける。

何とかなりそうだ。


こいつが切れれば、後はドアを開けて飛び出すだけだ。

…ドアを開けて。


……開くのか?

俺は作業を中断し、ドアに手をかけた。


開かなかった。

何だよクソったれ!
怒号はいつしか泣き声に変わっていた。

ちくしょう。

こんなところで死んでたまるか。

やっと逃げ出せたんだ。これからなんだ。

車が揺れた。


ひぃぃ


俺の悲鳴に、別の声が重なった。

妻の声だ。

幻聴に違いない。

「あなた……どうしたの…」

「動けないんだよ!今、この車は崖っぷちでゆらゆら揺れているんだ!
少しでも動いたら、真っ逆様だ」


「そう…そうなの」

トランクからズルッと音がした。

まさかまだ生きていたとは。

あれだけ刺したのに、まったくしぶとい女だ!