英治は忘れ物が無いか、もう一度室内を見渡した。
とは言うものの、忘れるほどの荷物など無い。
僅かの食糧と水、妻の写真。
発作が起きた時に使う薬液注入用の機械。バッテリーは心配無い。
英治にはラナが居る。
ラナは、電池で動く介護用ロボットだ。
外見を選択する時、英治は昔飼っていたゴールデンレトリバーにした。
その犬もラナと言った。
英治が好きなバンドThe Beach Boysのバラード曲『Lana』から貰った名前だ。

犬は、第三次大戦の最中、英治の妻を守って共に死んだ。

戦地から帰った英治は、たった一人になってしまった。

国からの補助でラナと共に、小さなアパートで暮らし始めたのが二カ月前。

街並みは復興には程遠い。
ほとんど砂漠に近いと言っても良いぐらいだ。


戦争が荒らした地球だが、それでも四季は訪れる。
夏の厳しい日差しが入り込む部屋で、ぼんやりと外を眺めているうち、英治は突然思いついたのだった。


「ラナ」

そばで寝そべるラナが頭を上げた。
少し、きしむ音がする。街を埋める砂が入り込むのだ。

「海を見に行くぞ」
キュイィィン、と返事するラナの頭を撫で、英治はもう一度言った。

「海に行くんだ」

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