翌朝になっても頭痛は残っていた。
顔をしかめながら洗面所に立つ。
山の水をそのまま引いてきているのだろう、
手が切れるような冷たさである。
林田は思わず、「うわ。冷てぇ」と声をあげた。

彼の背後で小さな笑い声がした。
振り向くと、沙耶加がクスクスと笑っていた。
「おはようございます。おじさま。どうなさったの。
顔色が悪いわ。」

「沙耶加…ちゃんだっけ。」

「覚えていてくれたの?うれしい」

「ちょっとね、飲みすぎたみたいで。頭が痛い」

「大変。お姉さまに言って、お薬をもらってあげるわ」
待ってて、と沙耶加は走って行ってしまった。

林田はその姿を微笑んで見送った。
「なんだ、良い子じゃないか。やっぱり、こんな山奥で
退屈してるんだろうな」

沙耶加お嬢様、廊下を走ってはいけません、と
田畑がたしなめる声が聞こえてきた。
「全くもう。沙耶加お嬢様ときたら…」

田畑がしかめ面で現れる。
「あ、林田さま。朝食のご用意が整いました。
どうぞ、こちらへ。」

田畑に案内された先には、すでに成加と沙耶加が座っていた。

「おはようございます」
林田の挨拶に成加が微笑む。
まるで映画のシーンのようだ、林田はその美しさに感動すら覚えた。

「沙耶加から聞いたのですが、お加減が悪いとか…」

「あ、いやお恥ずかしい次第で。少し飲みすぎたようです」

「それなら良いのですが。後で田畑に薬を届けさせます」

「あの…真由加さんは」

「まだ養生が必要ですので。寝たきりが続いているのです」

それでは昨夜見た姿は…と、訊ねようとした林田に
沙耶加がまとわりついてきた。