早発ちした十兵衛は、歩きながら、箱根天狗との闘いの全てを話した。
この旅は、何故だか判らぬが妖しの物に狙われている。
ならば少しでも多く、知識を得ておくのに越したことはない。

「なるほど。若、その天狗の残党が狙っているのでは?」

「それは無いだろうな。あの時残ったのは皆、心根の優しい者ばかり
であった。今度の江戸行きを嫌がっている奴の差し金であろう」

「ですな。爺もそう思います。それにしても…」

「なんだ」

「その猫の王とやら。会ってみたいものですなぁ…」

十兵衛の顔が懐かしさに満ちる。
「あぁ、なかなかの逸材よ。俺はな、又佐。」

「はぁ」

「いつか必ず、猫殿と共に大陸へ渡ると約束したんだ」
十兵衛は己の右肩を触りながら、遠くを見た。

なるほど、と又佐は納得した。
若の心の氷を溶かしてくれたのは、その猫であったか。
まこと、出会いというのは人物をかえる。

だが今、二人を待つ出会いは甚だ迷惑なものであった。
二人の前に、編笠姿の侍達が現れた。
総数五名。中の一人が街道を外れたところにある野原を指し示した。

十五へ