もうかれこれ20年以上
前の話だ。


俺は毎週木曜日の夜
10時過ぎになると、
ポケットを100円玉で
一杯にしてアパートを
出た。

目指すのは公衆電話。


俺が電話をかけようと
している相手は、遠く
四国は愛媛に居た。
アパートに電話は
引いていたが、際限
なく話してしまうのが
怖く、用意した100円
玉が無くなるまでと
決めて話した。


彼女とは大学卒業間近
に出会い、そのまま
恋に落ちた。

同棲まがいの生活を
何週間か続け、彼女は
愛媛に帰った。

青木港からフェリーに
乗り、故郷へ帰る彼女
は、最後まで微笑んで
いた。

俺が頼んだからだ。
大好きな君の笑顔を
覚えておきたいから、
と。今思えば、なんて
わがままなんだろう。


俺はその後も一年間
ずっと毎週木曜日に
電話をかけた。


けれど、バンドが売れ
始め、俺はいつの間
にか、電話をかけ
なくなった。

最後の夜、彼女は
『元気でいて』と
それだけ言った。

俺は何となく、
終わったんだなと
思った。


まだ携帯なんか想像も
つかない頃の話だ。

最後の100円玉が
落ちて、通話切れを
知らせる音を今でも
俺は時々思い出す。
少しの痛みと共に。