陽介が懐かしいものを思い出すように、遠くを見つめた。

「…少し、耳が不自由な子でね。」

「え…」
予想しなかった話に梨恵が黙り込んだ。

「酔っ払いの車がね、クラクション鳴らしながら突っ込んで来た。」

真剣な表情で梨恵は相槌を打っている。

「だけど、彼女は気づかない。俺が飛び出して、道端に倒したんだけど、逆に噛みつかれた」

そう言って陽介は右腕を見せた。
微かに傷が残っている。
「でも、目の前を猛スピードで車が駆け抜けて電柱にぶつかってね、かなりビックリしてさ。
しきりに謝るんだけど、耳が聴こえないってその時に判った。」
陽介は右腕の傷をさすりながら話を続けた。

「もっとも、どうせ俺も英語が話せないからさ、関係ないしね。
それからは絵とか、習いたての英単語とかを書いて話してたんだ。」

黙っていた梨恵が、陽介の腕に触る。
「好きだった?ミリアンちゃんのこと」

「中学生だからね、恋多き年頃さ。好きにならないわけがない。でも、夏休みが終わるまでの恋だったんだよ。
離婚したんだ、彼女の親。親権は父親に有った。
アメリカに帰る彼女に、俺はどうする事も出来なかった。」

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