ぽろぽろと大粒の涙をこぼす陽菜に、優しい声が掛けられた。

「お嬢さん、大丈夫。その狸は死んじゃいない」

「え?」

振り向いた陽菜の前には、美しい銀色の猫がいた。
猫は続けて陽菜に話し掛けてくる。

「多分、人間に化けたのは初めてなんだろうね。
エネルギーが枯渇しているのだろう。
早く言えば、腹が減って動けないんだな。」

銀色の猫は、優雅に近づくと、ウィルに何か飲ませた。

「ほら、仙丹だ。少し苦いが体力が回復する」

仙丹と呼ばれるその粒は、おそらく少し苦いなどという生易しい物ではないのだろう。

「苦い苦い苦い」
口を尖らせて文句を言いながらウィルは飛び起きた。


「ウィルっ!良かった、助かって」

「あ、ども。あれ、こちらの猫さんは」

「八幡彦平衛か。我が名はイブ。皆からは先生と呼ばれている」

ウィルの丸い目が、更に丸くなった。
平身低頭したまま、ぴょんと飛び退さり、そのまま固まる。

「し、滋賀県のイブ先生がわざわざ私のところまで」

「だって待ってたのになかなか来ないからさ」
先生が軽やかに笑う。

「だからキャットネットワークを使って探したんだよ。でも、わざわざ来た甲斐があった」