「え…」

「ただな、多分あの高圧線の影響やろな。あこまでしか追いかけられへんねん。
おもろいで、逃げきると滅茶苦茶悔しがりよんねん。それ見たいから、わざわざバックミラーまで付けたんや」

もう良い。これ以上、この男と話していると負の意識に取り込まれてしまう。
私は適当に返事し、男を見送った。

それからも何度となく、あの鯰顔を見かけたが、声をかけるのは止めた。
くだらない冗談だとしても、気持ちの良いものでは無いからだ。

何ヶ月か経った朝。
夜勤明けの帰り道、向こうから鯰顔が来た。

様子が違う。
私は驚いてしまった。
鯰顔が、立ちこぎを止めていたのだ。

すれ違いさまに、話しかけようとして何か違和感を感じた。


なんだ。
なにか変だ。

すぐに判った。
私は話しかけるのを止めて、道端に寄り、鯰顔を避けた。


鯰顔は二人乗りをしていた。
後ろに乗っているのは、頭から血を流したお婆さんだ。

どうやら追いつかれたらしい。

よく見ると、後輪がパンクしていた。

それで逃げ切れなかったのだろう。


ガタガタと音を立てて、鯰顔と老婆は私の前を通り過ぎて行った。

老婆の手は、しっかりと鯰顔の肩に食い込んでいた。