二階分ほど降りた時、下から靴音が聞こえてきた。

村瀬は安堵の余り、へなへなと腰を下ろした。
先ほどと同じような姿勢で下を覗き込む。

(知ってる顔だといいな…)

靴音の主が顔を上げた。
そのしぶとそうな顔に見覚えが有る。
村瀬は、今回は盛大に悲鳴をあげた。

悲鳴をあげているのは彼だけでは無かった。
死んだ筈の男も悲鳴をあげているのだ。靴音の間隔が速くなった。

駆け出したらしい。
「ひやぁぁぁぁっ!」
と叫びながら駆け上がってくる。

村瀬はまた、引き込まれるように覗いた。

必死になって駆け上がってくる男の後ろで、何か得体の知れない真っ黒な影が蠢いている。

もやもやとしたそれが、徐々に形を整え始めた。
逆回しの映像のように、しゅるしゅると固まっていく。

そしてそれは、真っ黒い女になった。

口のある辺りから、くすくすと笑い声が聞こえる。
時々、真っ黒な手を伸ばし、男に触れようとする。
男はその手から逃れようとしているようだ。

村瀬は何となく鬼ごっこを連想した。

とうとう男は捕まった。
触られた所が見る間に黒くなっていく。
「なるほど、それで真っ黒だったのか」
小さな声だったが、思ったより響いた。
黒い女が村瀬を見つけた。

完へ