「す、すいません、大浜に行きたいのですが」

「大浜かい?えぇと…あと15分で来るよ。ここで待っていると良い」

「ありがとうございます」

健太は、心底からホッと安心した。
少しだけ、目が潤んだ。でも、弟の前では涙は見せられない。

「何しろ、男だからな」

「なぁに、にぃちゃん」

「なんでもないよ。次来た電車に乗るからな」

「うんっ!とうしゃんと、もうすぐあえゆね」

健太は弟の肩を強く抱きしめた。

そうさ、もうすぐお父さんに会える。


だが父はその頃、まだ会社に居た。
二人が行く事は内緒だった為に知る由もない。


健太は、一本あとの電車でようやく大浜駅に着いた。
ここからはバスだ。
母が書いてくれた地図を出す。

「ここが正面だから…あれかな?」

もう、大人に話しかけるのも怖くない。健太は運転手に訊いた。

「このバスは美方町の方に行きますか?」

「うん?美方かい。あぁ大丈夫だよ。乗りなさい。どこまで乗っても二百円だ」

バスは山道をゆっくりと進んで行く。
右に左に揺られているうち、二人は眠り込んでしまう。

降りなければならない美方町のバス停を乗り越してしまった。

六へ