「哲郎さんか。あんた、知らないのか?去年の冬に亡くなっただ。
お母さんが風邪をこじらせてなぁ、一生懸命看病して、
ようやく治ったはいいが、無理したんだろうなぁ、今度は
自分が肺炎になってたそうだよ。それでも頑張って、働いて働いて…」

村人はそこまて言うとボロボロと涙をこぼした。

「あの子は強かっただ。本当に、強かった。」
最後に、愚連隊との一件を話し、村人は去っていった。

母親も悲嘆のあまり、後を追うようにして亡くなったらしい。
あまりにも哀れな母子の為に、繁華街の皆が金を出し合って
墓を建てたという。

仁科は茫然としたまま、山の稽古場へ向かった。

「なんだ、これは…」

仁科が驚くのも無理は無かった。

地面のあちこちが深くえぐれていたのだ。
まるで一面、開墾したかのように掘られている。

それは哲郎が残した稽古の跡であった。

右の突きと同時に踏み込む、その跡が
残っていたのだ。

「…こんなになるまで、ここで一人っきりで」

仁科は声をあげて泣いた。
己の不覚に泣いた。

そして何より、弟子の一途さが彼を号泣させた。

十七へ