風はまだ冷たいが、
日差しには少しだけ
春の気配がする。

救急救命センター管理
当直医師の谷川は、
救急車を待っていた。

新生児集中治療室の
患者を大学病院へ転移
搬送する為に依頼した
のだ。

あと数分で到着との
連絡を受け、既に患者
はセンターまで降りて
来ている。

患者は、厳重に管理
された保育器の中で
小さな体に点滴や
チューブ、心電図用の
コードをまとわり
つかせていた。

谷川は脳外科の医師
である為、詳細は
知らないが、担当医師
の説明では循環器系に
先天的な異常を持つ
新生児らしい。

谷川は何の気なしに
その新生児を見た。

『ぼく、おかあさんに
あえるの?おうちに
かえるの?』

「誰か何か言ったか?」

谷川は周りに聞いた。

皆、首を横に振る。
「どうかしたんですか
?」

事務当直の奥山が
聞いた。

「いや。何でもない。」

谷川は目の前の
新生児を見た。

(まさかな…)