切欠は、茶碗である。
その日の洗い物が多く、和佳子は多少イラつきながら
手を動かしていた。
皿を置くスペースも無くなってきた為、一旦、布巾で
拭いて片付けることにした。
中の一つに、その茶碗が在った。
何という事は無い茶碗なのだが、和佳子の大の
お気に入りなのだ。

手が滑った。
あぁっ、と悲鳴がこぼれた。
何故か両手が頬にあがる。
拾えば良いのだが、大抵こういった時に
人は両手を頬にあてて、きゃぁ、などと言ってしまうのだ。
和佳子の手から落ちた茶碗は薄手の瀬戸物である。
割れることは必至であった。

目をぎゅっと閉じてその音を待つ。
が、音がしない。

「あれ?」
恐る恐る目を開けて驚いた。
夫の優一が床に転がっている。
そしてその右手に、割れるはずの茶碗が握られていた。

「セーフ。」
にこにこ笑っている。


二へ