「あなたの娘御は、細川ガラシャと名乗り、衆々に愛を説いたと聞く。
その父君である貴殿が地獄を招こうというのか」

十兵衛のその問いに天海はなかなか答えようとしない。
ようやく、口を開いた。
「判らぬ。判らぬが、もうやるしかないのだ。私には
何も残っていない。さて、話はこのぐらいにしておこう。
十兵衛。待たせたな、最後の相手はこの天海じゃ。
ちと面白い物をお目にかけよう」

天海の指先から白く輝く液体が迸り始めた。それは水銀であった。
見る見るうちに、水銀が体を覆っていく。
全身に鏡を纏ったようだ。
右手の水銀がするすると伸び、刀となる。
天海はその刀を振りかぶり、十兵衛に斬りかかってきた。
もとより、剣技において劣る十兵衛では無い。
一分の見切りで避けた。
にも関わらず、十兵衛の頬が切れる。

「く、なるほど、その刀…伸びるのだな」

鏡と化した天海の顔が笑う。
「さよう。どこまでも伸びるぞ。ほれ、このようにな」
天海の刀が突然、紫近に向かった。
辛うじて太郎丸が弾く。
その隙を見逃さず、十兵衛の刀が袈裟斬りに襲う。

「む!」
滅多に無いことに、十兵衛が驚愕の声をあげた。
刀が入らない。ゆるやかに流されてしまう。

「驚いたか。わが甲冑は刃物では斬れぬ。
突いても無駄じゃ。錐であろうが、その小童が持つ
斬馬刀であろうが、刃物では我に傷一つ付けられぬのじゃ」

百一へ