洋が言葉を引き継いだ。
「あんちゃんがいつも言ってた場所があるんです。
今は、この土地で充分だけど、いつかはここで豆腐を
作ってみたいな、って言ってたのを思い出して」

その土地は、硬水と軟水の両方が採取できる珍しい土地である。
洋が訪ねていった時、兄は昔のように夢中で豆腐を作っていた。
出来上がった豆腐を食べた時、洋は会社を辞める決意を固めた。
兄を説得するのに一時間もかからなかったという。

「ようやく出来たよ。これ、食べてみて。今朝一番に作ったやつだ」

熊は鍋を覗き込んだ。息を呑む。あの日と同じように、
手ですくって食べてみた。
「うっわぁっ!」

いぶも横から手を伸ばす。
「なにこれ。これ、本当に豆腐?」

はっちゃんは笑い出した。
「な、できただろ。俺が作って、弟が運んでくれるんだ。
これ、使ってくれるかな、熊さん」

熊は、ぶんぶん、と大きく頷いた。
「とりあえず三十。待ってるお客さんが山ほどだ」

その日の夕方、熊は新しい短冊を用意し、筆ペンを持ちしばらく悩んだ。

にまっと笑い、こう書いた。


『本物の冷奴』

季節外れのそれは、30分も経たずに売り切れた。