「このまま海を渡ると、そこにはまた国があるのか。
そしてそこにもまた、強い者が居るのであろうな。」

「ええ。沢山居ましたね。私が生まれ、育った地には
恐ろしい妖しの者がおりました。あの頃、十兵衛様が
おられたら、仲間も沢山守れたかもしれない。」

「どうだ。猫殿。首尾よく終わったら、俺ともう一度
海を渡らんか。」

十兵衛が何気なく言った言葉だが、先生は思わずゴロゴロと
喉を鳴らしてしまった。
「はい。行きましょう。十兵衛様、約束ですよ。」

「あぁ。約束だ。この刀にかけて。」

「では私は尻尾にかけて。」

海坊主は小田原の海上で舟から離れた。
「ありがとう。海やん。また一杯やろうね。」

「あぁ。先生、気をつけてな。天狗は強ぇぞ。」

小田原城が見える。ここからは歩きだ。
京を出て、まだ一日も経っていなかった。
妖怪連れの為、山道を行かねばならないが、
それでも充分、余裕があった。
烏天狗達はおそらく、空を飛んで箱根に向かうはずである。
行程としては、二日はかかるものと踏んでいた。
事実、烏天狗の群れはまだ駿府の城下を飛んでいた。