寛永寺本堂。
天海が寿老人から報告を受けている。
「さすがにちと手強いですな、十兵衛は」

「うむ。こちらのものにならないとすれば…わしの目的の一番の障害」

天海が傍らにいる大黒天に話しかけた。
「のう、早目に手を打つか。…どうした、大黒天」

大黒天の顔からいつもの笑みが消えている。
にやにやと人を小馬鹿にするような笑顔が無い。
「…恵比寿が。…消えました」

「何ッ?!あのものは我等の切り札であるぞ。あのような海底で、
誰が恵比寿を倒したというのだ」

「皆目見当もつきませぬな…」
大黒天も頭を捻るばかりである。
珍しく天海が苛立っている。恵比寿が海底に潜んでいる、
そのことが彼の何よりの切り札だったのだ。
海坊主などという存在を知る由も無かった。

「代わりの恵比寿を用意できぬのか?」

「無理ですな。七福神に成り得る素材、そう容易くは…」

福禄寿が高らかに膝を打った。
「良いことがありますぞ。十兵衛の身内である爺…又佐とか言いましたな、
あの者を恵比寿の素材にしてはいかがなものか。
大黒よ、あれなら大丈夫だな?」

無論、とばかりに大黒天が大きく頷く。
「だがどうやってだ。あの爺もなかなかの腕を持つと聞くぞ」
さよう、さよう、なかなかに厄介じゃ、あの爺は…
と喧しく言い立てる一同を天海が制した。

「布袋の袋を使えば良いであろう。あれは、好きな場所に人を
飛ばすことが出来る。大黒天の前に連れて来れば良い。」

全員が膝を打った。
「その為には計略を練らねばならぬ。耳を貸せ」
天海の計略を聞く一同に、会心の笑みが浮かんだ。


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