深く・深く・静香は潜っていく。
微かな香りしか残っていないが、過去への旅には充分である。

(…居た。この人が志乃さん…優しい顔 二人とも楽しそうに笑って……
あぁ、この夜に赤紙が…泣いて泣いて、泣きながら匂い袋を作った…
うん。大体の材料は判る。

一つだけ、とても爽やかな匂いがする
それが判らない
もう少し、もう少しだけ深く入れれば…

駄目だ、
焼夷弾の臭いが強すぎて判らない!)

徹夜で潜ってみたが、どうにもならない。
静香は初めて敗北を知った。

大体の香りは解った。
ベースになる香料は、店にあるもので賄えるはずだ。
それには自信がある。
が、あと一つだけ、今まで嗅いだことのない香りがした。
柑橘系の匂いであることは確かだ。
匂い袋の中に、柑橘系の果物の干した皮を入れることも充分有り得る。
蜜柑、柚子、レモン…違う。あれほど前に出てくる匂いではない。
みずみずしいが、もっと控えめな奥ゆかしさ、それでいて自らを主張する強さがある。

そう、それは志乃さんのような香りなのだ。