次の日も、つくね亭は店内全体が明るい笑い声に満ちていた。
何が楽しいのか判らないが、皆が皆、楽しそうに話をしながら
食事を楽しんでいる。
藤田は人付き合いが苦手な男だ。
特に、妻を亡くしてから一層、その傾向に拍車が掛かった。
ところがこの店に来ると、何故か見知らぬ客とも話が弾んでしまう。
何故だろう、藤田は周りのテーブルを見渡して、ようやく答を見つけた。

店主と女将が媒体になっているのだ。
一人一人は見知らぬ同士でも、熊といぶが細かく気配りするおかげで、
それぞれが気の置けない仲になってしまう。

例えば一つ隣のテーブルだ。
「映里ちゃん、今度さ、幼稚園で隠し芸見せなきゃなんないのよ。
お得意のマジック教えてくれない?」
鯖寿司をぱくつきながら、話し掛けている主婦は、
足元で子供を遊ばせている。

映里ちゃんと呼ばれた女性は金目の煮付けを突付きながら答える。
「あ、いいですよ。千花瑠さん。安くしときます」

「金とんのかいっ」
そう言ってあけすけに笑う女性は、先ほどから鯛の粗炊きに夢中である。

「もちろんですよ、あ。なんなら理恵ママにも教えましょうか?
お店で使うのにいいかも」

「飲んべぇ相手に見せるマジック?あたしの美貌がマジックそのものよ」

おそらくは、近所の主婦の集まりだろうと思われるが、年齢が様々だ。
理恵ママと呼ばれる女性は、スナックか何かのママなのだろう。
それでも皆、なんら違和感無く、古くからの友達のように笑い合う。

「理恵ママの美貌がマジック…黒魔術だったりして」

「なによ、熊さん。どういう意味よ」
そう言いながらも、理恵ママは満更でも無い表情を見せている。
皆、熊のことが好きなのである。
他のテーブルの客も、そのやりとりを楽しんでいる。