今度は俺が黙り込む番だ。

同じようにコーヒーを飲み干し、俺はとりあえず先を促した。

「…で、俺が悲鳴をあげた途端、消えたんす」

「へぇ…」

「おかげでサボりかけた音声学を無事受けることができました」

「なぁんやそれ。S子ちゃん、サボんなやって言いたかったんちゃう?
で、強力な思念を飛ばしたとか」

その日は結局、それっきりだった。

翌日、突然やって来たK輔はまた黙り込んだ。
今度はポロポロと涙を流し始めている。

「…どした。まるで俺が泣かしてるみたいやんけ」

涙を拭うこともせず、K輔は続けた。

「今朝ね、連絡がありました。
上海でS子が事故に巻き込まれて、搬送先の病院で亡くなったんす。
丁度、俺が部室で寝てた時っす」

大声をあげて泣きじゃくるK輔を慰めながら、俺は、ふと思いついた。

「S子ちゃん…なんで手だけだったんだろ」

「酷い交通事故で…手首から先だけが、まだ見つかってないんです。潰れちゃったのかも」

K輔はポケットから指輪を取り出した。

「帰ったら、彼女の誕生日にコイツをあげる約束だったからかな…」


K輔の言う通りだったらしい。
その後も、一度だけ手は現れた。

K輔が見守る前で、遺影に捧げられた指輪に触れ、ふっと、手は消えたという。