トーヤは、その一瞬、最後の力を振り絞って跳びました。
その岩には、一カ所だけ穴が開いているのです。
いつもいつも、この岩で過ごしているトーヤでなければ知らない穴です。
トーヤが穴に隠れたので、目標を見失ったハヤブサは、思い切り岩にぶつかってしまいました。

ケェーンと悔しげな鳴き声をあげ、ハヤブサは逃げていきました。

「はは、やったぞ…母さん、ごめんなさい もう目を開けてられないや」
遠ざかる意識の中で母さんに詫びながら、トーヤは静かに目を閉じました。

仲間達が駆け寄ってきます。
口々に叫ぶ声もトーヤには、もう聞こえませんでした。



あの日から数えて二週間が経ちました。
野原は、すっかり秋の気配を漂わせています。

ススキの穂が揺れる中、ウサギ達が仲良く遊んでいます。

真っ白なウサギ達の中に、背中に黒い蛇の模様を持つウサギが居ます。

トーヤです。

楽しそうな笑い声を立て、仲間とふざけあっています。

あの日受けた傷は、黒い蛇の左右に醜く残りました。

けれど、誰もそれを馬鹿にしません。

それどころか、皆がトーヤを黒い龍のトーヤと呼び、尊敬しました。

蛇の左右についた傷は、ちょうど翼に見えるのです。

もうトーヤは独りではありません。

神様は、ちゃんと幸せを送ってくれたのでした。