「又佐、江戸行きを仰せつかった。俺と二人、即刻
発てとのことじゃ。そうと決まれば待ったの効かない奴等だからな」

又佐は、この老人には珍しく満面に笑みを浮かべた。
笑うと益々、狸に似てくる。

「すでに旅のご用意は整えてございまする。
この日が来るのを又佐、信じておりました」

「食えない爺さんだ」

「何か仰いましたか」

「いや、何も。村の子供らには手伝いの者から
伝えさせてくれ。必ず、竹とんぼは間に合わせるとな」

足ごしらえを済ませ、二人は里を出た。
十兵衛は振り分け荷物一つ。対して又佐の方は、なにやら
長く、大きな長持を担いでいる。

「又佐、その荷物が必要な旅になると思うのか?」

「判りませぬ。年寄りの勘ですな」

「ふむ。その勘、外れると良いのだが…」

「本心ではありますまい。退屈な旅はしたくない、と
お顔に出ておられまするぞ」

なんとなく、二人、微笑んでしまう。
旅の目的は知れぬが、こうして里から出られるだけで十兵衛は満足だった。

所詮、俺には風しか似合わぬ、そうとさえ思っている。


五へ