「変わった人間もいたものよ。そして、猫よ。久しぶりだな。
どうだ、気が変わったか。ぬしならば、直ぐに
わしの片腕になれるのだぞ。」

「そして人や仲間の妖怪を殺しまわるのですか。
ごめんこうむります。」

天狗は大声で笑った。杉木立が揺れる。
「あいかわらず、甘い甘い。その甘さ、命取りになると
以前に度々教えたはずだ。」

「甘いのは、ぬしの方であろう。」
十兵衛が笑い返す。

「お主が無理矢理従えていた妖怪達は、すでに解放した。
この山に残っている烏天狗どもも、俺が6匹退治た。
さぁ、どうする」

「なにっ!…と言うとでも思ったか。片腹痛いわ。
侍、貴殿が何奴かは知らぬが、いずれどこぞの食い詰め浪人だろう。
そのような者にとやかく言われる筋合いは無い。すでに我が切り札、
龍の勾玉はこちらに向かっておる。」

山が揺れるほどの笑い声を立てる天狗を見据え、十兵衛は続ける。

「これは失礼つかまつった。拙者、名を柳生十兵衛三厳と申す。
義によって猫殿の助っ人をいたす。いざ、参る。」

十兵衛が刀を抜き、だらんと下げた。無位の形である。
十兵衛がもっとも得意とする必殺の構えであった。