駅前の方角から車の衝突音が聞こえた。
何か弾けるような乾いた音もする。
美穂には知る由も無かったが、それは拳銃の発射音である。
警官ですら、己の身を守るのが精一杯であった。
もう少しで隣の家のベランダである。
とにかく、人食い兎からは逃れることができた。

「井伊山さん、お願い、ここを開けて」
激しくガラスを叩いたが、何の反応も無い。
部屋の中を覗き込んだ美穂は、そこで起こっている出来事に
悲鳴をあげることすら忘れた。
井伊山一家が、既に死んでいることは明らかであった。
その体を黒い物が覆っている。

「うげぇ」
我慢していた悲鳴が沸いて出た。
黒い物は全てゴキブリであった。

さぁ、あなたは食い殺されるとしたら、どれを選びますか。
1、雨蛙
2、兎
3、ゴキブリ

全部ごめんだわ。
美穂は鳥肌が立つ腕で自分を抱きしめると、そっと窓から離れた。

「陽一、大丈夫?あのね、母さんお願いがあるの。聞いてくれる?」

「うん。なぁに母さん」

「今から母さんね、家に戻って車のキーを取ってくるから。
それまでここでジッとしていること。いい?」

確かスペアキーが居間にあった筈だ。
車があるガレージまで、屋根伝いに行けば蛙にも蟻にも
襲われずに済む。
問題は兎。
何か武器が無いと太刀打ちできない。
ベランダを見渡し、美穂は利用できる物を探した。