「へぃいらっしゃいっ」
威勢の良い、それでいて優しい声がカウンターから投げられた。
熊のような大柄な男が主人であるらしい。
鋭い目をしているが、全体の印象は柔らかい。
にこにこと、藤田を見て笑っている。
店の中は、常連客と思われる人間で満員であった。
人付き合いの苦手な藤田は、出ようかどうしようか、瞬間迷った。

「藤田さん。珍しいな、藤田さんでしょ」
声をかけた者が居る。
そちらを見て、藤田は安心した。
妻がよく通っていた花屋の店主であった。

「あぁ、香映さんか。いやな、手伝いのもんに飯を頼むのを
忘れとったでな。どこでも良かったんだが、鰆の照焼きに惹かれてしもうた」

馴染みでは無い店で、見知った顔を見つけた安心からだろう、
藤田には珍しく、自分から近づいた。

「それはよござんした。この店は藤田さん好みよ。
何しろ、あの熊さんの腕がいい。
料理の素材だけじゃなくてね、その人の体の調子に合った
料理を出してくれるのよ」

そんな事が可能なのか、と藤田は瞠目して店の主人を見た。
熊というのが名前なのか、あだ名なのかは判らないが、
正に最適の名前である。