『吾郎さん。あと一日だよ。天界へ行くか、それともここで
自縛霊になるか。どうするんだ…と言いたいところだが、
安心しなよ。ほら、あんなこと言ってる』

案内人に促され、吾郎は息子夫婦の会話に聞き耳を立てた。

「明子ばあちゃんの受け入れ先が決まったよ」
その手元には、老人ホームのパンフレットがある。

『おお。良かった。とりあえずは命の危険は無くなる。
ま、明子本人はともかく、これでわしも一安心じゃ』
吾郎もやれやれと胸を撫で下ろした。

『じゃ、天界へ向かう準備をしようか』

『お願いします』

いよいよ旅立ちである。
身を清め、全てを委ね、経を唱えながら
吾郎は最後の一瞥を自宅にくれた。
その口から経が途切れ、替わりに悲鳴が湧いた。

『明子!どこへ行くんだ。そっちは山だぞ』

明子がいつの間にか家を出て、裏山へ
向かっている。
ゆっくりと、けれど着実に山へ向かう明子に
誰も気付こうとしない。

『大丈夫、吾郎さん。誰かが気付くから。
ここで中止したら、あんた浮遊霊になっちまうぞ』

『しかしこのままじゃ明子は、明子は山へ入ってしまう。
今の季節、とてもじゃないがあんな格好で夜を過ごせるとは
思えん。わしゃ行くぞい』