ゆらりと動き出した。

コマ落としのようにカクカクと近づいてくる。

村瀬は飛び起きると、ほとんど四つん這いになって逃げ始めた。

黒い女は意外な速さで上がってくる。

捕まったら最後、同じように黒く焼け焦げてしまう。

ゼイゼイと息が上がる。

捕まる前に心臓麻痺を起こすかもしれない。

どちらが先でも死ぬことに変わりはない。

村瀬は獣のように涎を垂らしながら、四つん這いのまま必死で駆け上がった。


ぼんやりとした灯りが頭上に見えてきた。

最上階だ。

薄く、扉が開いている。
灯りはそこから見えていた。


「ひぃひぃ」

言葉も悲鳴も出ない。
ただ、苛立たしい呼吸音だけが口からこぼれる。

くすくすと笑う声がすぐ近くで聞こえた。
後ろを振り向くのも惜しみ、村瀬は扉の中に飛び込んだ。

「やった、やったぞ、ざまぁみろっ!」
扉を閉め、叫ぶ。

はぁはぁ。
荒い息を整えながら村瀬は後ろを振り向いた。


そこには非常階段があった。

最上階は遥か彼方にあるようだ。

「ふりだしにもどる…か」

あはははは、と村瀬は乾いた声で笑った。

扉が物凄い力で叩かれている。
もう少しで開こうとしているようだ。


「よっこらしょと」
少しでも距離を稼ごうと村瀬は階段に向かった。