ここは、素人が来る店じゃない。
たまたま迷い込んだ若者などでは太刀打ちできない店なのだ。

だからといって、通ぶったバーテンダーが居丈高に、或いは小馬鹿にして応対するわけではない。
ただ、周りの客が一瞬、ちらりと見るだけだ。
あぁ、俺は何か恥ずかしいミスをしたのかなと、勘の鋭い奴なら直感できる冷たい視線が浴びせかけられるのだ。

例えば、ギムレットを30分以上かけてチビチビと飲む奴。

或いは、ブランデーをロックで頼む奴。


ところが中には、全く意にも介さずに、得々と彼女に蘊蓄を傾ける輩も居る。

そう言う奴らは、二杯目に何を注文しようとも、全て品切れだ。

常連達は、トリプルOが出たと言って唇の端だけで微笑む。
OUT OF ORDER、バーテンダーが故障したというわけだ。

流石にこれをやられると大抵の客は店を出る。
中にはバーテンダーに食ってかかる奴も居るが、
そんな時は、逆に常連客に追い立てをくらうだけだ。

警察を呼ぶぞ、などと脅しても無駄だ。
客の中には、刑事もいる。

大人の男が静かに酒を飲める店、その日一日を反省し、感謝できる店、
そんな我が儘な店が街に一軒ぐらいは在ってもいいのだ。


さて、俺も一杯もらうとするか。


すまないが、小岩井ミルクを。

「何かで割りますか?」

そうだな…
今日の俺は、バッドラックが仲良くしようと申し込み多数でね。
少しだけ、自分を甘やかそうと思うのさ。
コーヒー味のミルメークで割ってくれないか。

「どうぞ」


流石だ。
ミルクがグラスの八分目までしか入れられてない。
ミルメークを投入してもこぼれないってわけだ。

乾杯。